人生の終着点にむけた準備である「終活」ですが、あまり生真面目に考え過ぎると前に進めなくなるものです。
つまり終活全てをワンセットで考えてしまうと大変なので、順を追って整理することが重要になります。
そこで考えるべきことは、後に残された人たちの負担を軽くすることですが、その視点で考えると「海外にある資産」は、自分が元気なうちに整理すべき優先順位の高いものといえます。
この記事では、「終活における海外資産の整理」にポイントを絞って解説します。
目次
終活と海外資産
一口に海外資産といっても種類は様々で、銀行預金や有価証券、不動産、車や美術品などの動産など多岐にわたります。 またそれらの資産がどこの国に存在しているかでも整理の仕方は変わってくるでしょう。 まずは肩の力を抜いて、終活における海外資産の整理について考えてみます。- 海外資産をどのように引き継いでもらうか考える
- 放置していると残された人の負担に
海外資産をどのように引き継いでもらうか考える
海外に資産を持つことになるきっかけは、海外赴任に伴うものや海外移住、あるいは投資活動の結果というケースが多いでしょう。 終活をお考えの方であれば、ある程度は「この海外資産はあの人に引き継いでもらおう」「このまま海外資産のままなら残された人が大変だから現金化してしまおう」など考えられていると思います。 とくに家などの不動産の場合は、そのまま引き継いでもらうにしても、相続人の意思を確認しなければ上手くいかないので、よく考えなければなりません。 また不動産がどこの国にあるかによっても手続きが変わってくるので、事前に調べておかなければ後々大きな手間が掛かってしまいます。放置していると残された人の負担に
終活は自分の死とも向き合わなければならない作業なので、健康に自信のあるうちは後回しにしがちになるものです。 しかし実際には余裕のあるうちこそ終活を考えておくべきで、いざ健康に不安を覚えてからでは時間的なリミットに追われることになるでしょう。 国内だけでの相続でも資産状況や相続人によっては煩雑になりますが、それが海外資産も含まれると非常に面倒になってしまいます。 アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・シンガポール・マレーシアでは、資産の金額によっては「プロベート(兼任裁判)」という公的な遺産分割手続きが必要になるので、何も対策をしていないと残された家族などが大変な苦労と出費を強いられることになるのです。 そのような事態をさけることが終活の目的の一つとなります。海外資産の種類ごとの整理方法
海外資産をそのまま引き継ぐにしても、売却や解約などして整理するにしても、事前準備は必要です。 ここでは持っている海外資産の種類ごとの注意点について、大まかに説明していきます。 もちろん資産が所在する国によっても整理方法は変わってきますが、基本的なところに絞ってお話します。- 家や土地などの不動産
- 預金口座や株式などの有価証券
- 車や美術品などの動産
家や土地などの不動産
海外に家や土地などの不動産を所有している場合、それらを現状のまま誰かに引き継いでもらいたいなら、不動産の所在する国にプロベート制度があるかないかが重要になってきます。 もしプロベートがあるのなら、それを回避するため不動産などを信頼できる管財人に生前に信託する「リビングトラスト」を利用するか、相続人と不動産を共有する「ジョイントテナンシー」にするのが一般的です。 日本をはじめ多くの国ではプロベートという制度はないので、そのような国にある不動産の相続には遺言書が有効になります。 その場合は、法的な効力を持たせるために裁判所公認翻訳士に、不動産の所在国の言語に訳してもらう必要があります。 不動産を相続せず売却する場合は、現地の不動産会社やエージェントに依頼することが必要です。 海外の不動産売却では、エージェントへの手数料や費用以外に、利益(キャピタルゲイン)が生じた場合は現地での税金だけではなく、日本でも課税されるので注意しましょう。預金口座や株式などの有価証券
海外の預金口座や株式などがあるときも、基本的に誰に引き継ぐのか決めておく必要があります。 ただ問題になるのは、預金や株式として相続するのか、日本の金融資産に変えておくのか考えておくことです。 もしそのまま相続する場合、やはりプロベートがある国とない国では難易度が大きく変わってきます。 ただプロベートがある国でも、一定額以下の少額資産(例えば香港の場合15万香港ドル未満)についてはプロベートが免除されるので、預金や株式の所在国の法律を確認しておきましょう。 また国によっては、マネーロンダリングを防ぐ観点から一定期間入手金のない口座は凍結され、さらにアメリカの場合「未請求資産(Unclaimed Property)」として州政府の管理下に置かれてしまいます。 こうなると手続きの難易度は一気に上がってしまうので、まずは口座などの現状を把握するところからスタートしましょう。車や美術品などの動産
海外に在住の方であれば、車や美術品などの動産を所有している方もおられるでしょう。 これらを委ねる人を決めて、可能であれば早期に譲ってしまう方が無難だといえます。 ここで問題になるのが、非常に価値の高いビンテージカーや美術品を所有しているケースで、終活を考えるのであればそれらの時価(評価額)を鑑定してもらったほうが良いでしょう。 時価によっては贈与税や相続税などで問題になることも考えられます。 その場合は事前の売却も選択肢の一つです。もし海外資産を整理していないとどうなるのか
終活は義務ではないので、いまだ多くの人が準備もせずその日を迎え、残された遺族が「知らなかった海外資産」を後から知るケースが多く見られます。 そうなってしまうと、日本の法律で定められている「相続手続き」と「相続税の申告・納税」で、相続人に大きな負担がかかってしまいます。 ここでは、もし海外資産について何も対策をしていない場合のリスクについて考えてみます。- 海外資産と相続税
- 海外不動産の相続
- 海外口座の煩雑な手続き
- 海外資産には負債も含まれます
海外資産と相続税
日本の相続税は、基本的に日本国内の資産であろうが、海外資産であろうが全て課税対象になります。 「基本的」というのには訳があり、被相続人と相続人がともに海外へ移住して10年以上経過している場合は、海外資産には相続税は課税されません。 つまり一家全員で全財産を根こそぎ海外へ移し、10年以上海外生活を続けることで日本の相続税から逃れることが出来るのです。 ただこれは特殊なケースなので、ほとんどの場合は海外資産も捕捉され課税されることになります。 もし終活などによる事前準備がない場合、相続人が苦労するのは被相続人の海外資産を把握する作業です。 少額の海外資産であれば本人ですら忘れているものもあるのではないでしょうか。 一方で俗に「富裕層」といわれる人たちの海外資産の把握には、国税当局が躍起になって取り組んでおり、「税務署に知られている」と思っておいたほうが無難です。海外不動産の相続
相続人にとって海外不動産の相続は手間のかかる作業になります。 とくにプロベートのある国の不動産で、事前に「リビングトラスト」や「ジョイントテナンシー」などの対策が取られていないケースでは、相続完了まで数年を要することもあります。 それ以外の国であっても、海外不動産の相続は法的な手続きなど国ごとに対応が変わってくるので、せめてリスト化するなどの対策はとるべきでしょう。海外口座の煩雑な手続き
海外にある預金口座の相続は、通常の場合相続時に解約することになるでしょう。 ただし手続きは煩雑になるケースが多いため、相続人にとっては大きな負担になってしまいます。 プロベートに該当しないときでも、日本語の書類だけでは手続きが進まないので、各種書類は対象国の言語に翻訳が必要となり、それらにアポスティーユ(駐日領事による認証に代わり公文書に公証人役場などが行う付箋認証)を付ける必要があります。 アポスティーユは、その条約加盟国でなければ承認されないので、中国や多くの中東諸国にある預金口座の場合は、当該国の駐日領事による認証が必要です。 最近は口座監視が非常に厳しくなっているので、書類を揃えただけでは解約まで至らないケースもでています。 とくにアメリカにある預金口座の解約では、プロベートに該当しない金額の口座であっても、プロベートや財産管理による手続きを踏まざるをえないことが多く、結果として多額の費用がかかることになってしまいます。海外資産には負債も含まれます
海外資産の相続では、必ずしも資産ばかりではなく負債の存在も確認しなければなりません。 もし資産よりも負債が多い場合、相続放棄を検討しなければならないのですが、まず資産・負債の把握から始めならなければならないうえ、国によって相続放棄の手続きが異なってきます。 よほど各国の法律知識に詳しくなければ対処できないので(事実上無理)、妙な負債を背負わないよう専門家の力を借りるべきでしょう。海外資産の整理で困ったときの相談先
海外に資産を持っていて終活を考えているならば、だいたいのアウトラインを考えたうえで、やはり専門家の力を借りるのが無難だといえるでしょう。 ただし相談する内容によって、どの分野の専門家が良いのかは変わってきますので、代表的な相談分野ごとの専門家について説明します。- 海外での各種手続きについて
- 相続税に関する相談
- 身内にもあらかじめ伝えておきましょう