不動産を生前贈与する際のメリット・デメリットから具体的な手続き方法
生前贈与は、節税対策としておすすめの方法です。しかし、不動産の場合はどのようになるのでしょうか。
現金や預貯金と異なり、不動産贈与は様々な手続きも発生するものです。
そこで今回は、不動産の生前贈与のメリット・デメリットや、実際にかかる費用の内訳・計算方法について解説します。
この記事を読むとわかること
  • 不動産の生前贈与で発生する費用
  • 不動産を生前贈与するメリット・デメリット
  • 不動産の生前贈与がおすすめなケース
  • 不動産を生前贈与する具体的な進め方

不動産の生前贈与とは

不動産の生前贈与とは

現金などと同じように、不動産の生前贈与は可能です。ただし、現金などと比べて、以下2つの注意点があります。

  • 贈与額が大きくなる可能性
  • 贈与税以外に、不動産所得税・固定資産税・登録免許税が課税される

不動産の生前贈与は、場合によってデメリットになる場合もあるので、注意しなければいけません。

不動産の生前贈与で発生する税金

不動産の生前贈与で発生する税金

不動産の生前贈与では、以下3つの税金が発生します。

  • 不動産所得税
  • 登録免許税
  • 贈与税

それぞれの税金について、計算方法も合わせて解説していきます。

不動産取得税

不動産所得税は、贈与を受けた人が一度だけ支払う税金です。税金の額は、不動産の価格(固定資産評価額)の3%~4%となっています。

  • 土地…3%
  • 住宅…3%
  • 住宅以外の建物…4%

不動産の名義を変更後、約6カ月程度で「納税通知書」が届くので、納付用紙を使用して、金融機関やコンビニから支払い可能です。

※補足 固定資産評価額とは

固定資産評価額は、各市町村が算定する固定資産税の基準となる価格です。固定資産税の納税通知書に添付される課税証明書で確認できます。

不動産取得税の計算方法

不動産所得税は、一般的な土地や住宅であれば3%です。以下は、固定資産税評価額が1,000万円で、不動産所得税が3%の場合の計算になります。

「固定資産税評価額1,0000万円×税率3%=不動産所得税30万円」

固定資産税評価額によって大きく異なるので、事前に計算しておきましょう。

登録免許税

登録免許税とは、不動産の名義変更した際に支払う税金です。贈与する場合は名義変更しなければならないので、必ずかかる税金になります。

登録免許税の課税額は、固定資産評価額の2%となっており、贈与する側、贈与を受ける側、どちらが支払っても問題ありません。

登録免許税の計算方法

登録免許税の税率は、2%です。よって、計算方法は以下のようになります。(固定資産税評価額が1,000万円の場合)

「固定資産税評価額1,000万円×税率2%=登録免許税20万円」

贈与税

贈与税は、不動産に限らず、財産の贈与を行った際に課せられる税金です。年間110万円以内の贈与であれば基礎控除となり、贈与税の申告や納税は必要ありません。

しかし、不動産の贈与で110万円以内に収まるケースはほとんどないでしょう。

また、贈与税の税率は、以下の2つがあります。

  • 一般税率…兄弟姉妹、夫婦間の贈与
  • 特例税率…親や祖父母から直系の子や孫へ贈与

一般税率と特例税率については、以下のとおりです。

課税価格 一般税率 特例税率
1,000万円以下 税率:40%
控除額:125万円
税率:30%
控除額:90万円
1,500万円以下 税率:45%
控除額:175万円
税率:40%
控除額:190万円
3,000万円以下 税率:50%
控除額:250万円
税率:45%
控除額:265万円
3000万円超 税率:55%
控除額:400万円
-
4,500万円以下 - 税率:50%
控除額:415万円
4,500万円超 - 税率:55%
控除額:640万円

贈与税の計算方法

贈与税は、課税価格と税率、控除額などを合わせて計算します。

以下は、課税価格が1,000万円で、親から子へ贈与する場合(特例税率)の計算式です。

「(課税価格1,000万円-基礎控除110万円)×税率30%-控除額90万円=贈与税177万円」

基礎控除も忘れずに計算するようにしましょう。

不動産を生前贈与する5つのメリット

不動産を生前贈与する5つのメリット

不動産を生前贈与する際には、以下の5つのメリットが発生します。メリットを踏まえて、生前贈与を行うか相続を行うか検討してみてください。

  • 配偶者控除の特例を利用できる
  • 贈与する時期を選べる
  • 不動産の収入は受贈者に帰属する
  • 相続トラブルの軽減
  • 贈与する相手を選べる

以下でメリットについて、具体的に解説します。

配偶者控除の特例を利用できる

夫婦間で自宅の贈与を行った場合は、「配偶者控除」という特例を利用できます。配偶者控除は、基礎控除110万円の他に、最高2,000万円までの控除を受けられる特例です。

ただし、以下の条件を満たす必要があります。

  • 婚姻期間が20年以上
  • 居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与

また、配偶者控除と暦年課税制度も合わせられるので、合計で2,110万円まで非課税になります。

贈与する時期を選べる

生前贈与は、贈与する時期を自由に選べるので、大きな節税効果を狙えます。

不動産は地価の変動とともに相続税評価額が変動するものです。

たとえば、将来的に値上がりする土地である可能性が高い場合、評価額が低いうちに生前贈与しておけば、将来的な節税に繋がります。

値上がりしてしまった後では、その分評価額も高くなり、課税額も高くなるので、値上がりする見込みがあるならば早い段階で贈与しておくと良いでしょう。

不動産の収入は受贈者に帰属する

収益のある不動産がある場合、不動産収入は受贈者が引き継げます。

贈与後に発生する収益については、贈与税も相続税もかかりません。

相続トラブルの軽減

生前贈与は、相続トラブルの軽減につながります。とくに不動産相続は、場合によっては受贈者の負担となる場合もあり、トラブルに発展するケースが多いです。

しかし、生前贈与であれば、贈与者が生きているうちに贈与する相手を選べるので、トラブルを未然に防げます。

相続によって血縁関係に亀裂が生じる場合もあるので、生前贈与を検討した方が良いでしょう。

贈与する相手を選べる

生前贈与は、贈与する相手を自由に選べるメリットがあります。

一方で、相続は原則として法定相続人でなければ相続を受けられません。もし法定相続人以外への相続を希望する場合は、遺言書などが必要になります。

生前贈与は、相続のような制限はありません。

贈与者が贈与する相手を自由に選べることで、相続トラブルの回避にも繋がります。

不動産を生前贈与する4つのデメリット

不動産を生前贈与する4つのデメリット

不動産の生前贈与は、デメリットもあります。主なデメリットは、以下の4つです。

  • 不動産取得税と登録免許税がかかる
  • 相続税よりも税率が高い
  • 小規模宅地等の特例が使えない可能性
  • 不動産の維持費がかかる

不動産の生前贈与を行う際は、デメリットも加味した上で検討しましょう。

以下では、それぞれのデメリットが生じる理由などを解説します。

不動産取得税と登録免許税がかかる

不動産の生前贈与は、相続よりも課税ポイントが多いです。不動産取得税と登録免許税を比較すると、以下のようになります。

不動産取得税 登録免許税
不動産の生前贈与 課税される 税率2%
不動産の相続 課税されない 税率0.4%

生前贈与では、不動産取得税がかかる上に登録免許税の税率も高くなります。必ずしも生前贈与の課税額が高くなるわけではありませんが、上の税金負担を加味した上で生前贈与か相続かを検討した方が良いでしょう。

相続税よりも税率が高い

贈与税の税率は、相続税よりも高く設定されています。

それぞれの税率や控除額は、以下のとおりです。

課税価格 贈与税 相続税
1,000万円以下(贈与税の場合は、200・300・400・600万円以下でも異なる) 税率:40%
控除額:125万円
税率:10%
控除額:-
1,500万円以下 税率:45%
控除額:175万円
-
3,000万円以下 税率:50%
控除額:250万円
税率:15%
控除額:50万円
3,000万円超(贈与税の場合は、3000万円超まで) 税率:55%
控除額:400万円
-
5,000万円以下 - 税率:20%
控除額:200万円
1億円以下(1億円以上は省略) - 税率:30%
控除額:700万円

表のように、贈与税は相続税よりもベースとなる税率が高く設定されています。

ただし、相続税は「亡くなった時点でのすべての財産」に課税され、贈与税は「贈与した財産のみ」に課税されるので、一概にデメリットとは言えません。

小規模宅地等の特例が使えない可能性

小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たしていれば、土地に対して評価額を最大80%軽減できる特例です。

以下の土地を対象に、「小規模宅地等の特例」が適用される場合があります。

  • 自宅のあった土地
  • 事業をしていた土地
  • 貸していた土地

しかし、生前贈与で「相続時精算課税制度」を利用していたり、相続発生前3年以内の暦年贈与によって相続財産に不動産の評価額が加算され足りする場合は、適用されない可能性があります。

不動産の維持費がかかる

収益のある不動産を受け取った場合、受贈者は収益だけを受け取れるわけではありません。贈与後の不動産の維持費は、受贈者負担となります。

不動産の規模が大きければ大きい分管理費用がかかってしまうので、負担に感じる人もいるかもしれません。

経年劣化や老朽化が進んでいる不動産の場合は、受贈者と贈与者の間でよく話し合っておくと良いでしょう。

ただし、相続の場合は事前に贈与者との話し合いができないので、生前贈与の方がメリットとも考えられます。

不動産の生前贈与をおすすめするケース

不動産の生前贈与をおすすめするケース

不動産の生前贈与は、以下のような人に場合におすすめです。

  • 値上がりの可能性が高い土地を所有している
  • 収益のある不動産を所有している
  • 相続税がかからない

なぜ上記のケースで、なぜ生前贈与を行った方が良いのか、以下で解説します。

値上がりの可能性が高い土地を所有している

将来的に値上がりの可能性が高い土地を所有している場合は、生前贈与を行った方が良いでしょう。

なぜなら、相続と生前贈与では、相続税評価額の計算タイミングが異なるからです。

  • 生前贈与…贈与したタイミングで計算
  • 相続…亡くなった時点での計算

つまり、将来的に値上がりする可能性があるならば、値上がりする前の段階で贈与した方が、課税額を抑えられるのです。

収益のある不動産を所有している

賃貸収入などの、収益のある不動産を所有しているのであれば、生前贈与を行った方が良いでしょう。

なぜなら、家賃収入が入り続けてしまうと、相続時の財産が増え、同時に課税額も増えてしまうためです。

また、中古マンションなどの場合は、贈与税・不動産取得税・登録免許税の軽減措置があるので、大きく税負担を軽減できます。

相続税がかからない

相続税の基礎控除は、3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)で計算されるため、相続人が1人の場合は、3,600万円までであれば相続税がかかりません。

一方で、生前贈与は一定要件を満たせば2,500万円までが非課税となる「相続時精算課税制度」が使えます。

相続時精算課税制度を使って贈与した額は、将来的な相続財産へ算入しますが、相続財産に組み入れても基礎控除内に収まる場合であれば、生前贈与の方が良いでしょう。

不動産の生前贈与がおすすめできないケース

不動産の生前贈与がおすすめできないケース

不動産を生前贈与せず、相続した方が良いケースもあります。以下のような場合は、相続を検討しましょう。

  • 子ども・孫・配偶者がいない
  • 相続財産が基礎控除内に収まる
  • 贈与税の控除制度を利用できない
  • 死期が近い

上記のケースでは、生前贈与ができない、または相続の方がメリットになると可能性が高いです。

相続と生前贈与のどちらを選んで良いかわからない場合は、司法書士や弁護士などに相談してみましょう。

不動産の生前贈与で節税になる制度

不動産の生前贈与で節税になる制度

不動産の生前贈与には、様々な控除や特例があります。それぞれを上手に使えば、大きく贈与税の負担を軽減できる可能性があるので、知っておきましょう。

主な控除や特例は、以下の3つです。

  • 相続時精算課税制度
  • 配偶者控除
  • 暦年贈与制度

それぞれの制度について解説するので、いずれかに当てはまるものがあれば、生前贈与の際に利用しましょう。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、最大2,500万円の贈与まで、贈与税がかからない制度です。2,500万円を超えた贈与分に対しても、一律20%の贈与税となります。

対象は、以下のとおりです。

  • 親や祖父母から子や孫に対して贈与をした場合
  • 親、祖父母が贈与があった年の1月1日時点で60歳以上
  • 子、孫が贈与のあった年の1月1日時点で20歳以上

しかし、相続発生時には、生前贈与された財産と相続財産を足した額に相続税がかかるので、必ずしも相続税が減額されるわけではありません。

配偶者控除

配偶者控除では、最大2,000万円の贈与まで、贈与税がかからない制度です。

適用要件は、以下のとおり。

  • 婚姻期間が20年以上の夫婦
  • 贈与されたものが、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭である
  • 贈与する不動産が国内にある
  • 贈与によって取得した不動産に住み続ける
  • 制度を初めて利用する

上記すべての要件に当てはまらない場合、配偶者控除は適用されません。

暦年贈与制度

暦年贈与制度とは、年間で110万円以内の贈与であれば、贈与税がかからない制度です。110万円以内の贈与であれば、血縁関係などの制限もなく、税務署への申告も必要ありません。

ただし、不動産の生前贈与の場合では、110万円以下に相当する持分を分割し、複数年かけて少しずつ贈与する必要があります。

不動産生前贈与の具体的な手続き方法

不動産生前贈与の具体的な手続き方法

不動産の生前贈与は、当事者の合意だけでも成立します。しかし、合意だけではトラブルになる可能性もあるので、契約書は作成しておいた方が良いでしょう。

また、登記申請や贈与税の申告など、生前贈与を行う際には、様々な書類や手続きが必要になります。

以下でステップごとに手続き方法を解説するので、参考にしてください。

  1. 不動産贈与契約の締結
  2. 贈与契約書の作成
  3. 法務局で登記申請
  4. 贈与税の申告

1.不動産贈与契約の締結

契約書を作成する前に、贈与する側と贈与を受ける側で合意をしておきましょう。

契約書作成の前に明確にしておくべきポイントは、以下の3つです。

  • 誰が贈与するのか
  • 誰に贈与するのか
  • どの不動産を贈与するのか

それぞれを明確にした上で、贈与契約書を作成します。

2.贈与契約書の作成

不動産贈与契約書は、必須ではありません。口頭約束だけでも、法律上は有効な契約です。

しかし、後々トラブルになってしまう可能性もあるので、不動産贈与契約書は作成しておいた方が良いでしょう。

不動産贈与契約書に記載しておく内容は、以下のとおりです。

  • 登記手続きに関する協力義務
  • 登記費用や固定資産税の負担に関する取り決め
  • 合意の旨
  • いつ贈与するのか
  • 受贈者の住所・名前・実印
  • 贈与者の住所・名前・実印
  • 不動産の情報(住所・面積等)

贈与契約書は不動産以外でも必要になるので、覚えておきましょう。

3.法務局で登記申請

不動産贈与契約書を作成したら、法務局で登記申請を行い、名義変更をします。

登記申請の流れは、以下のとおりです。

  1. 必要書類を揃える(登記識別情報通知・贈与する人の印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)・贈与を受ける人の住民票固定資産評価証明書または課税明細書・不動産贈与契約書)
  2. 登記申請書を作成する
  3. 不動産の所在地を管轄する法務局へ一式を提出
  4. 登録免許税の納付
  5. 登記識別情報通知の受領

基本的な流れは上記のとおりですが、誤りや追加書類の要請がある場合は、指示に沿って対応してください。

4.贈与税の申告

贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行います。ただし、基礎控除額110万円以内であれば、申告手続きの必要はありません。

贈与税申告の基本的な流れは、以下のとおりです。

  1. 必要書類を揃える(贈与税申告書・登記事項証明書)
  2. 受贈者住所地の所轄税務署長へ提出
  3. 贈与税や不動産取得税の納付

誤りや追加書類の要請がある場合は、指示に沿って対応してください。

特例や控除を活用する際の必要書類

生前贈与の特例や控除を受ける際には、用意しておくべき必要書類が多くなります。

制度ごとの必要書類は、以下を参考にしてください。

制度 必要書類
相続時精算課税制度 ・受贈者・贈与者の戸籍謄本又は抄本
・受贈者・贈与者の戸籍の附票の写し
・贈与者の住民票の写し
配偶者控除 ・受贈者の戸籍謄本又は抄本
・受贈者の戸籍の附票の写し
・居住用不動産の登記事項証明書
・受贈者の住民票の写し

不動産を生前贈与するの注意点

不動産を生前贈与する注意点

不動産の生前贈与を検討しているのであれば、注意点についても理解しておきましょう。注意点を理解しておかなければ、トラブルになってしまう可能性があります。

主な注意点は、以下の2つです。

  • 贈与契約書を作成しておく
  • 分割贈与にかかる時間

それぞれの注意点について、具体的に解説します。

贈与契約書を作成しておく

「不動産生前贈与の具体的な手続き方法」でも解説したように、生前贈与を行う場合は、贈与契約書を作成しておきましょう。贈与契約書は、以下の場合に効果的です。

  • 税務署からの指摘を避けられる
  • 生前贈与の事実を証明できる

また、暦年贈与制度を活用する場合は、毎年贈与契約書を作成してください。後々一括で作成してしまうと、暦年贈与制度が適用されない可能性があります。

分割贈与にかかる時間

暦年贈与制度を活用する場合は、不動産の持分を複数回に分けて贈与できます。しかし、暦年贈与制度は110万円までなので、すべての土地や建物を贈与するまでには時間がかかります。

もし分割贈与の途中で、贈与者が亡くなってしまった場合は、遺産分割協議をしなければいけません。

そのため、不動産を分割贈与する場合は、早い段階で始めるようにしましょう。

不動産は生前贈与か相続か要検討

不動産は生前贈与か相続か要検討

不動産の生前贈与は、メリットになるとは限りません。場合によっては、相続の方が良い場合もあるので、メリット・デメリットを比較した上で検討してください。

また、生前贈与する際には、節税に効果的な制度もあるので、それぞれを理解しておくことが大切です。

ぜひ今回の記事を参考に、所有している不動産の贈与方法を考えてみてください。

 

 

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