生前贈与は、生存している間に財産を他者に渡すことです。単純に財産を渡すだけではありますが、生前贈与には知っておくべき仕組みがあります。
また、生前贈与を行うのであれば、贈与税についても理解しておかなければいけません。特例や控除もあるので、あわせて理解しておきましょう。
今回の記事では「生前贈与とは何か」や「生前贈与を行うメリット・デメリット」についてお伝えしていきます。
終活の一環として、生前贈与をするべきか否か、考えておきましょう。
- 生前贈与のメリット・デメリット
- 生前贈与の申告方法
- 生前贈与を行う上での注意点
目次
生前贈与とは?わかりやすく解説
生前贈与とは、字のとおり、財産を持っている人が生きているうちに他社へ財産を贈与することです。
贈与する理由はそれぞれですが、主に相続税の節税対策を目的として行われます。
生前贈与の概要については、以下にまとめました。
受贈者(生前贈与を受け取る人) | 無制限 |
贈与する財産 | 無制限 |
贈与する金額 | 無制限 |
生前贈与でかかる税金 | 贈与税 登録免許税(不動産贈与の場合) 不動産取得税(不動産贈与の場合) |
また、生前贈与の受け取り方については、以下の2種類があります。
相続時精算課税制度
相続時精算課税とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子供や孫へ贈与する場合に選択できる方法です。
相続時精算課税を選択すると、受取額の2,500万円を超えるまでの贈与税が無税となります。
ただし、贈与を受けた側が税務署へ申告しなければいけません。
一度相続時精算課税を選択すると、暦年課税への変更ができないので、注意しましょう。
暦年課税
暦年課税とは、1月1日~12月31日の1年間で110万円までの贈与であれば非課税になる制度です。
110万円までの贈与であれば、原則税務署への申告は必要ありません。
受贈者が相続時精算課税の申請をしなければ、自動的に暦年課税を選択したことになります。
生前贈与と相続の違い
生前贈与と相続は、どちらも他社に財産を残すといった意味では同じです。しかし、大きく以下の違いがあります。
生前贈与 | 相続 | |
財産を渡すタイミング | 贈与者(贈与を行う人)が生きているうちに財産を贈る | 贈与者が亡くなった後に財産を遺言などによって引き継ぐ |
税金の手続きを行う時期 | 贈与者が生きているうちに贈与税を支払う | 贈与者が亡くなってから税金が発生 |
財産を贈る相手 | 制限なしに選べる | 基本的に親族が対象 |
生前贈与を選ぶべきか相続を選ぶべきかの参考として、それぞれの違いを理解しておくと良いでしょう。
生前贈与を行う3つのメリット
生前贈与は、相続税を抑えられる点が主なメリットです。その他の具体的なメリットは、以下の3つになります。
- 相続税の軽減
- 税制改正等のリスク回避
- 特定の人に財産を残せる
以下で、「なぜそれぞれのメリットが生じるのか」「どのような場合にメリットとなるのか」について、解説します。
相続税の軽減
生前贈与は、相続時の財産を減らせるメリットがあります。相続税は、相続時の課税遺産総額に対して課税されるため、生前贈与によって財産を減らしておくことで、税金を軽減できる可能性があるのです。
たとえば、5,000万円の財産があった場合、そのまま相続するとなれば、5,000万円に丸々相続税がかかります。しかし、贈与税のかからない暦年課税で毎年110万円ずつ贈与していけば、その分相続財産が減り、相続税も軽減されるのです。
このように、生きているうちに計画性を持って生前贈与を行えば、大きな節税効果が得られます。
税制改正等のリスク回避
税法は、毎年のように改正されています。そのため、相続税や贈与税に関する税制が変わる可能性があり、将来的には節税のメリットを得られなくなる可能性があるかもしれません。
しかし、暦年課税であれば、1年ごとに課税関係が清算されます。贈与のあった年の税制で課税関係が決まるので、将来的な税制変更によるデメリットの影響を受けません。
将来的な不安を回避するためにも、生前贈与の暦年課税は効果的なのです。
特定の人に財産を残せる
生前贈与は、贈与する相手を制限なしに選べます。相続では、基本的に親族のみが対象になるため、自由に財産を分配できる点で生前贈与はメリットになります。
相続においても、遺言書などを利用して希望の相手に財産を残すこともできますが、必ずしも遺言書のとおりに相続できるわけではありません。
そのため、特定の親族ではない相手に財産を贈るのであれば、生前贈与をおすすめします。
生前贈与3つのデメリット
メリットの多い生前贈与ですが、当然ながらデメリットも発生します。主なデメリットは、以下の3つです。
- 生前贈与が成立しない場合がある
- 定期贈与とみなされる可能性がある
- 遺留分侵害額を請求される可能性がある
いざ生前贈与を行う際、トラブルにならないように、デメリットについても理解しておきましょう。
生前贈与と認められない場合がある
生前贈与を行うためには、贈与者と受贈者、双方の合意がなければいけません。もし双方の合意がない場合は、生前贈与として認められない可能性があります。
また、現金手渡しや名義預金、へそくりなどは税務署に否認されるケースが多いため、贈与の方法についても注意しなければいけません。
生前贈与を認めてもらうためには、贈与契約書などを作成しておくと良いでしょう。
定期贈与とみなされる可能性がある
暦年贈与は、毎年110万円まで贈与税が課税されない方法ですが、毎年同じ金額を贈与してしまうと定期贈与とみなされて、贈与税が発生する可能性があります。
定期贈与とみなされないための対策としては、主に以下2つの方法があります。
- 贈与契約書を作成しておく
- 贈与の手段として銀行振込を活用する
定期贈与とみなされて課税されてしまうと、生前贈与のメリットを得られなくなってしまうので、あらかじめ定期贈与とみなされないための対策を考えておきましょう。
遺留分侵害額を請求される可能性がある
生前贈与を問題なく行っていた場合でも、他の相続人の遺留分を害する場合には、その分について請求される可能性があります。
遺留分の算定に含まれる生前贈与は、以下のとおりです。
- 亡くなる前1年以内に行われた生前贈与
- 受贈者が相続人であり、贈与が特別受益にあたる場合
遺留分の侵害は、相続後のトラブルになりやすいので、あらかじめ遺留分の侵害がないかどうかを確認しておきましょう。
遺留分とは
遺留分とは、相続人のなかで一定範囲の相続人に対する一定割合の相続財産を指します。遺留分によって、相続人は最低限の金額は相続できるように保障されています。
たとえば、遺言に不平等な遺産の分割があった場合は、遺留分侵害額請求として、遺言の内容を撤回できるのです。
生前贈与の主な控除・特例
生前贈与には、いくつかの特例や控除があります。特例や控除を利用すれば、贈与税の軽減が可能です。
以下で、主な特例4つを紹介するので、生前贈与を行う際の参考にしてください。
居住用不動産を配偶者間で贈与した場合
居住用不動産を配偶者間で贈与した場合は、2,000万円までであれば非課税にできます。
しかし、婚姻期間が20年以上の夫婦であり、受贈者である配偶者が住むための不動産もしくは購入資金を贈与する場合に限ります。
子や孫への教育資金の一括贈与の場合
贈与者が、子や孫に教育資金として贈与を行う場合、1,500万円までであれば非課税になります。
ただし、対象は、父母や祖父母などの直系尊属から30歳未満の子や孫です。
また、子や孫の名義の口座に入金し、引き出しの際には教育費の領収書が必要になります。
しかし、この特例が認められるのは、2023年の3月31日までです。
結婚・子育て資金の一括贈与の場合
結婚や子育てに限定した一括贈与の場合、1,000万円までなら非課税になります。
対象は、受贈者が18歳以上50歳未満で、前年所得が1,000万円以下です。
ただし、この特例が認められるのは、2023年の3月31日までです。
父母や祖父母からの住宅取得資金贈与の場合
父母や祖父母などの直系尊属から住宅の新築・購入・増改築費用の贈与を受ける場合、1,000万円までなら非課税になります。
ただし、この特例が認められるのは、2023年の12月31日までです。
生前贈与をした方が良い人の特徴
生前贈与にはメリットもデメリットもありますが、「自分が生前贈与を行うべきかどうか」については疑問に思う人もいるでしょう。
実際に、生前贈与はどんな人にでもメリットになるわけではありません。
以下で、どのような人であれば生前贈与を行った方が良いのか、5つのケースについて解説します。
贈与者の年齢が若い
生前贈与は、若い人が行った方が良いです。
暦年贈与の場合、毎年110万円までしか贈与できないため、相続の節税対策として生前贈与を行うには長い年月が必要になります。また、相続開始前3年間に行われた贈与については、相続税として計算されるため、高齢の方では相続として計算されてしまう可能性の方が高いです。
年齢的に若く健康的な方であれば、複数年にわたっての生前贈与で、相続税を軽減できる可能性が高くなります。
複数人に財産を分配したい
相続人だけではなく、複数人に財産を分配したい人には、生前贈与をおすすめします。
先述したように、生前贈与は親族ではない他者にも財産を分配できます。また、複数人に財産を分配できることで、財産を減らすことにもつながるでしょう。
遺言で自分の理想とする相手に財産が分配されるか不安な場合は、生前贈与で分配しておくと良いです。
好きなタイミングで贈与したい
生前贈与であれば、贈与者の好きなタイミングで財産を贈与できます。
相続税は、贈与者が亡くなってから発生するため、いつどのタイミングで財産が分配されるかわかりません。
生前贈与であれば、子どもや孫の教育にかかるタイミングや家を購入するタイミングなどで贈与可能です。教育や住居に関連するものであれば、特例によって非課税枠での贈与もできます。
収益物件の贈与を検討している
家賃収入が見込める不動産を所有している場合は、相続時に引継ぐよりも、生前贈与を行った方が良いでしょう。
収入物件は、収益が財産として蓄積され、その分も相続税の計算に加算されてしまうからです。
生前贈与で不動産を引き継いでおけば、贈与移行に発生する収益は受贈者のものとなり、相続税とは関係しません。
贈与者が事業の経営者である
贈与者が事業の経営者である場合は、生前贈与をおすすめします。
経営者が所有する自社株や事業用の不動産などは、相続によって分配すると、会社経営に影響を及ぼす可能性があるからです。
とくに株式については、確実に事業の後継者に承継できるように準備しておかなければいけません。
会社経営を存続させるためにも、相続ではなく生前贈与で整理しておきましょう。
生前贈与の申告方法
生前贈与を行った場合、受贈者はケースに応じて申告を行わなければいけません。
以下では、申告について3つを解説します。
- 申告期間
- 申告が遅れた場合
- 申告をしなかった場合の追微税
他税金と同様に、申告が遅れたり申告をしなかったりする場合は、延滞金等で課税額が増えてしまうので注意しましょう。
申告期間
生前贈与によって申告が必要になった場合は、贈与を受けた年の2月1日~3月15日までに贈与税の申告と納税を行います。
贈与税は1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与額をベースにして、「暦年課税」と「相続時精算課税」のいずれかの方式によって計算されます。
申告が遅れた場合
申告が遅れた場合については、後述する「追微税」の問題が発生します。
また、「相続時精算課税制度」を適用できない問題も発生してしまうので、注意してください。
相続時精算課税制度を選択する場合は、原則として申告期限までに贈与税の申告書と合わせて「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければいけません。届出書の提出が遅れてしまった場合は、暦年課税で贈与税を計算する形になってしまい、贈与税の負担が増えてしまいます。
申告をしなかった場合の追微税
贈与税の申告の必要があるのにも関わらず、申告をしなかった場合、追微税が発生します。
追微税の内訳は、以下のとおりです。
- 無申告加算税…申告期限までに申告書を提出しなかった場合に発生
- 過少申告加算税…期限内に申告した税額が過少だった場合に発生
- 重加算税…事実を隠蔽して過少申告や申告をしなかった場合に発生
- 延滞税…納税が遅れた場合に発生
追微税は、申告が遅れてしまうと多少なりとも発生してしまうため、できる限り早い段階で申告をするのが大事です。もしも申告を忘れていたとしても、後になればなるほど追微税が増えてしまいます。
無申告加算税については、期限を過ぎた後に自身で行った場合の税率は5%ですが、税務調査を受けてから申告をした場合は、15~20%まで上がってしまいます。
延滞税についても、日数に応じて増える仕組みになっているので、できるだけ早く申告を行いましょう。
納税ができない場合は?
費用負担の大きさから、納税が難しい場合もあるでしょう。
現金や預金の贈与であれば、そのなかから納税にあてられますが、不動産などの場合は別途現金を用意しなければいけません。
もしそのようなケースで納税が難しい場合は「延納」が可能です。延納とは、名前のとおり、納税を先延ばしにできる制度になります。
利子税は加算されますが、延滞税よりも低い設定になので、負担を抑えられます。
延納の利用条件については、以下のとおりです。
(1) 相続税額が10万円を超えること。
(2) 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
(3) 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること。
ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。
(4) 延納申請に係る相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。
引用元:相続税の延納|国税庁
その他、延納の担保の種類や利子税については、国税庁のホームページにて記載されているので、そちらもあわせて確認しておきましょう。
【相続税の延納】
生前贈与をスムーズに行うポイント
生前贈与をスムーズに行うために、3つのポイントをおさえておきましょう。
- 計画的に行う
- 証明書を用意する
- 領収書を残しておく
生前贈与は、場合によっては認められないケースもあるため、あらかじめ準備をしておく必要があります。
いざ生前贈与を行う際のトラブルを防ぐためにも、以下のポイントを理解しながら進めていきましょう。
計画的に行う
生前贈与を行う際は、計画的に行いましょう。
思い立ったように生前贈与を行うと、後々生前贈与を認められなかったり、受贈者が理解していなかったりと、何かしらのトラブルにつながる可能性があります。また、場合によっては生前贈与ではなく、相続で財産を引き継いだ方が良いケースもあります。
贈与については、税理士や銀行なども相談にのってくれるので、まずは近くにいる専門家に相談してみてください。その上で、どのような生前贈与の方法が良いかを検討し、中長期的な計画で進めていきましょう。
証明書を用意する
生前贈与を行う場合、受贈者も「贈与をされた」という認識が必要です。受贈者が理解していなければ贈与と認められないため、必ず証明書(贈与契約書)を作成しておきましょう。
贈与契約書に厳密なルールはありませんが、自由に書いてしまうとトラブルになる可能性があるので、以下の5つを必ず記載するようにしてください。
- 誰が贈与するのか…贈与者の指名
- 誰に贈与するのか…受贈者の指名
- いつ贈与するのか…実際に贈与をする日付け
- 何を贈与するのか…贈与財産の種目・内容・金額
- どのように贈与するのか…贈与の方法
上記の文章とあわせて、署名捺印を行っておきましょう。
また、贈与計画書は、2通作成して、贈与者と受贈者双方で保管しておくと良いです。
領収書を残しておく
受贈者は、贈与された金額を利用した際には、領収書を残しておきましょう。
税務署に生前贈与があったと認めてもらうためには、「受贈者が受け取ったお金を使っている」という証拠が必要になるからです。
領収書を残しておけば、贈与計画書がなかった場合にも証拠になります。
生前贈与の注意点
生前贈与の注意点として、以下の3つを理解しておきましょう。
- 相続発生3年以内の贈与は相続税がかかる
- 名義預金として相続税の課税対象になる可能性がある
- 生前贈与による生活費不足
生前贈与がデメリットにならないためにも、注意点を理解した上で行うようにしましょう。
相続発生前3年以内の贈与には相続税がかかる
生前贈与は、生きている間に贈与をすればどのような贈与も認められるわけではありません。贈与者が亡くなる3年以内に行われる贈与については、相続税の計算に含まれてしまいます。
そのため、病気などを患って急いで生前贈与を行ったとしても、3年以内に亡くなってしまえば生前贈与と認められません。
ただし、加算対象となる3年以内の贈与は、相続や遺贈等によって財産を取得した人に対して行われた贈与分のみです。対象外の贈与は有効になります。
名義預金として相続税の課税対象になる可能性がある
贈与者が子どもの名義の預金口座を解説し、その口座に生前贈与として入金していた場合でも、相続税の対象になる場合があります。
前提として、生前贈与は贈与者と受贈者の双方が合意していなければいけません。そのため、親が子の預金に入金していたとしても、子ども自身が贈与の事実を知らなければ、生前贈与と認められないのです。
相続税にならないためには、たとえ親と子どもの関係であっても、贈与契約書を作成しておく必要があります。
生前贈与による生活費不足
生前贈与は、相続税の対策として、早い段階から行う人もいます。なかには、早い段階から多くの財産を分配する人もいるでしょう。
しかし、生前贈与による生活費不足には注意しなければいけません。「もう長くない」と感じて生前贈与を行うも、自分の想像以上に長生きしてしまった場合、単に生活費が少なくなってしまいます。
相続税の対策として行うのは良いことですが、老後の設計も考えながら計画を進めていかなければいけません。
生前贈与は計画的に確実に行いましょう
生前贈与には、自分の希望の相手に財産を渡せたり、相続税を軽減できたりするメリットがあります。ただし、相続発生前3年以内の場合は、相続税として計算されてしまうため、できるだけ早い段階で行っておくと良いでしょう。
しかし、贈与の額や方法によって生前贈与と認められないケースもあるので、しっかりと計画を立てながら生前贈与を行ってください。
ぜひ、今回の記事を参考にして、終活の一つとして、生前贈与を検討してみてください。